
企業の成長において社内DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は重要な課題となっています。かつて経済産業省の「DXレポート」において「2025年の壁」として指摘されたレガシーシステムの限界は、企業の競争力に影響する現実の課題となっています。
本記事では、2026年現在の動向を踏まえ、現場の生産性を向上させるための具体的な取り組みを解説します。社内DX推進の参考にしてください
社内DXの現状と「2025年の壁」が示す課題について
2025年を通過した現在の視点で社内DXを再定義し、レガシーシステムに関連する「維持費の高騰」「サイバー攻撃への脆弱性」「データの死蔵」といった具体的な課題について確認していきましょう。
2026年に求められるDXの再定義:AI共生と自動化へ
これまでの「社内DX」は、紙の書類をPDF化したり、ハンコを電子契約に置き換えたりといった「デジタル化」が中心でした。しかし、2026年に求められるのは、蓄積されたデータをAIが解析し業務判断の一部を自動化する「プロセスのデジタル化」、さらにはビジネスモデルそのものを変革する「トランスフォーメーション」の領域です。
DXの段階には明確な定義があります。第1段階の「デジタイゼーション」はアナログ・物理データのデジタル化、第2段階の「デジタライゼーション」は業務プロセスのデジタル化による効率化、そして第3段階の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が、ビジネスモデルの変革にあたります。多くの日本企業はこの第2段階で停滞しており、ビジネス変革に至っていないケースも多いでしょう。
例えば、経費精算システムを導入するだけでなく、AIが領収書の画像から費目を自動判別し、異常値を検知して承認フローを回すといった仕組みです。人間が介在するプロセスを減らし、AIと併用しながら業務を進めるスタイルへの移行が求められています。
ツールを導入すること自体を目的にするのではなく、「データがいかにシームレスに連携し、意思決定のスピードを上げられるか」が重要な要素です。
年間12兆円の損失リスクとレガシーシステムの実態
公的機関のDXレポートにおいて、レガシーシステムが残存した場合「2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある」との推定シナリオが示されています。長年使い続けられてきた基幹システムは、複雑なカスタマイズによってブラックボックス化しているケースが多く、新たな技術との連携を阻む要因となります。
2025年の市場調査によると、6割を超える企業にレガシーシステムが存在し、8割が事業への悪影響を懸念しています。レガシーシステムが引き起こす主な問題としては、次のようなものが挙げられます。
● 新技術との連携を阻む「ブラックボックス化」
● セキュリティパッチの適用困難によるサイバー攻撃リスク
● ランサムウェア被害や情報漏えいによる社会的信用の低下
これらの課題に対応するためにも、レガシーシステムの見直しを検討することが重要です。
IT人材不足と「2025年の壁」について
最新の「DX動向」によると、DX人材が「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した日本企業の割合は、85.1%と高い水準でした。このままでは、既存システムの維持が困難になり、新たなDX推進や事業継続に影響を及ぼす可能性があります。
プロセスを作り直す「BPR 2.0」とシステム刷新
2026年版の業務プロセス改革について詳しく解説します。AI活用を前提としたシステムの標準機能に業務フローを合わせる考え方(Fit to Standard)の徹底と、不要なプロセスの排除手順を確認していきましょう。また、既存システムを段階的に最新化する「モダナイゼーション」の手法についても解説します。
業務プロセスの見直しと再構築
社内DXにおいて課題となるのが、既存の非効率な業務プロセスをそのままデジタルツールに置き換えてしまうことです。例えば、紙の稟議書で行っていた複雑な承認リレーを、そのままワークフローシステムで再現しようとするケースです。これではツールの導入コストがかかるだけで、承認までのリードタイムは短縮されにくいのが現状です。
実際、中小企業のオフィスワーカーの87%が「ソフトウェアは働き方の柔軟性向上に役立つ」と感じている一方で、導入プロセスにおいて「現場の混乱や工数増大を招いた」との指摘も少なくありません。
2026年の業務プロセスの抜本的な見直し(BPR)では、次のような考え方が参考になります。
● 「この承認は本当に必要か」を問い直し、不要なプロセスを排除する
● AIによる自動チェックで代替できる業務を洗い出す
● SaaSの標準機能に合わせて業務フローを変更する「Fit to Standard」を採用する
独自のカスタマイズを減らすことで、導入期間の短縮、コスト削減、および将来的なシステムのアップデート追従性を確保できます。
モダナイゼーションの動向
基幹システムの刷新にあたっては、すべてを一気につくり変える「ビッグバンアプローチ」は影響範囲が大きく、近年では慎重に検討される傾向が強まっています。代わりに採用されているのが、既存の資産を生かしながら段階的に移行する「モダナイゼーション」の手法です。
具体的には、巨大な一枚岩のシステムを機能ごとの小さな単位に分割し、優先度の高い機能から順次クラウド化していくアプローチなどが取られます。例えば、顧客管理機能だけを先行してクラウドのCRMに移行し、在庫管理システムとはAPIで連携させるといった方法です。
これにより、業務への影響を最小限に抑えつつ、システムを適切な状態に保つことができます。クラウドネイティブな技術を採用することで、必要に応じてリソースを拡張できる柔軟性を持ち、ビジネス環境の変化に対応できる基盤を構築できるでしょう。
ハイブリッドワーク時代のITインフラ整備
DXの成果に影響する「ITインフラ」について解説していきます。クラウド利用が標準となった現在、通信トラフィックの課題とセキュリティ対策は密接に関連しています。ここでは、LBOによる通信最適化と、ゼロトラストセキュリティについて確認していきましょう。
LBOとゼロトラストセキュリティの両立
Web会議やSaaSの利用急増により、社内ネットワークからインターネットへ抜ける回線が混雑し、業務効率が低下する問題が発生しています。これに対応するため、特定の信頼できるクラウドサービスへの通信を、社内ネットワークを経由せずに各拠点から直接インターネットへ接続させる「LBO(ローカル・ブレイクアウト)」の導入が進んでいます。
しかし、LBOは従来の「社内ネットワークの境界で守る」というセキュリティモデルを無効化するため、新たな対策が必要です。そこで有効となるのが「ゼロトラストセキュリティ」の考え方です。「社内ネットワークも信頼しない」というスタンスで、デバイスの状態やユーザーの振る舞いを常に検証します。
具体的には、端末上の脅威を検知・対応するEDRや、クラウド型のWebセキュリティフィルター(SWG)などを組み合わせ、場所を問わず安全に業務ができる環境を整備します。
ハイブリッドクラウドとAPI連携
すべてのシステムをパブリッククラウドに移行することが正解とは限りません。機密性の高いデータや低遅延が求められる処理は自社運用に残し、拡張性が必要なフロントエンド部分はクラウドを利用するといった「ハイブリッドクラウド」の構成が現実的な解となるケースも少なくありません。
ポイントは、自社サーバーで管理するオンプレミス環境とクラウドが分断されず、データがシームレスに連携していることです。APIを活用して異なるシステム間をつなぎ、販売データ、在庫データ、顧客データなどがリアルタイムに同期される環境を構築できるようになります。これにより、経営層は鮮度の高いデータに基づいて迅速な判断を下すことが可能になります。
「デジタル・アダプション」による現場への定着

システムを導入しても、現場の社員が活用できなければ効果は限定的です。「デジタル・アダプション」に焦点を当て、定着化のためのアプローチを解説していきます。また、生成AI時代の注意点である「ハルシネーション」への対策についても確認していきましょう。
従業員満足度とUX/UI
使いにくいシステムは、従業員の負担となり、生産性の低下につながる場合があります。社内システムにおいても、コンシューマー向けアプリのような直感的で使いやすいUX(ユーザー体験)/UI(ユーザーインターフェース)が求められています。
従業員満足度(EX:Employee Experience)を高めるために、システム選定時に意識したいポイントとしては、次のようなものが挙げられます。
● 「アクセシビリティ」を重視する
● 複数システムのデザインや操作感に統一性を持たせる
● 「マニュアルを読まなくても利用できる」程度の使いやすさを目指す
これらを意識した選定を行うことで、DXの現場定着を促進できるでしょう。
DAPの活用
解決策として注目されているのが「DAP(デジタル・アダプション・プラットフォーム)」です。ガートナー社の定義によれば、DAPは「アプリケーション上にガイダンスを重ね、利用定着を促進するソフトウェア」とされています。
DAPは、SaaSなどの画面上に操作ガイドを直接表示し、「次に入力すべき項目」などをナビゲートします。これにより、マニュアル作成や研修の工数を削減し、新入社員のオンボーディングにかかる時間を短縮する効果が期待されています。
生成AI活用におけるリスクと対策
社内DXにおいて生成AIの活用は重要ですが、同時に管理面での注意も必要です。注意が必要なのは、AIが誤った情報を出力する「ハルシネーション」や、著作権侵害、情報漏えいのリスクです。
AIが出力した結果を人間が検証するプロセスを組み込むことが有効です。また、社内データのみを学習させたクローズドな環境でのAI利用や、社内データを参照しながら回答を生成するRAG技術を用いて回答の根拠を提示させる仕組みの導入も有効です。
AI活用に関するリテラシー教育も、デジタル・アダプションの重要な要素といえます。
こうしたリスクに対応するためには、生成AIの利用範囲や禁止事項を定めた「AIガバナンスポリシー」を整備することが有効です。例えば、「社外秘情報をAIに入力しない」「AIの出力をそのまま社外向け資料に使用しない」といった基本ルールを明文化し、全従業員に周知する対応が、大企業を中心に取り組みが進んでいます。ツールの導入と並行して、利用に関するルール整備を進めることが、組織全体でのAI活用の土台となります。
戦略的アウトソーシングと「LCM」によるリソース最適化
IT人材不足に対応するための組織戦略を解説していきます。PC等のデバイス管理を外部化し、コスト削減とガバナンス強化を両立させる手法(LCM)について確認していきましょう。
IT資産管理の新たな常識とLCM
1人1台以上のPCやタブレットが当たり前となり、テレワークで働く場所も分散する中、社内すべてのデバイスを管理する業務の負荷が増しています。調達、キッティング(初期設定)、配布、運用保守、そして廃棄に至るまでのライフサイクル全体を管理する業務は多岐にわたり、情報システム部門の負荷となっています。
そこで、これらの業務を一括して外部の専門企業に委託する「LCMサービス」の活用が進んでいます。
ウチダエスコでは、特定のメーカーに依存しない「マルチベンダー対応」を強みとしており、Windows、Mac、iPad、Chromebookなどが混在する環境でも一元的に管理が可能です。キッティング・リペアセンター「ESCO 船橋-BaySite」では月産最大60,000台の処理能力を有しており、大規模な端末展開にも対応できます。
このような大規模な対応力を持つパートナーを活用することで、企業は調達の納期遅延に伴う業務影響を小さくし、安定したIT環境を従業員に提供し続けられるでしょう。
情シス部門の業務シフト
LCMサービスを活用してPC管理やヘルプデスクといった「定型業務」を外部化することは、単なる業務委託以上の意味を持ちます。それは、情シス部門が優先度の高い業務にリソースを集中させるための体制構築といえるでしょう。
IT人材が不足する中、情シス担当者はトラブル対応や資産棚卸しに多くの時間を費やすのではなく、AI活用の企画立案、データ分析による経営支援、セキュリティポリシーの策定といった業務に時間を割くことが期待されます。
運用保守のプロフェッショナルであるアウトソーサーに定型ワークを任せ、社内の人材をDX推進のリーダーとして育成することが、企業の持続的な成長において有効です。
2025年以降のDX推進ロードマップ

「2025年の壁」という節目を経て、DXのフェーズは単なるシステムの導入から、ビジネス価値を持続的に創出するための「運用と進化」へと移行しています。ここでは、変化の激しい市場環境に対応し続けるために不可欠な、継続的な改善サイクルの構築手法について解説します。
アセスメントからDevOpsへ
DXは一度の取り組みで完結するものではありません。システムをリリースした後も、ユーザーのフィードバックを受けて改善を繰り返し、ビジネス環境の変化に合わせて機能を追加していく必要があります。
継続的な改善を実践する上で、次の5つのステップが参考になります。
● ステップ1:現状の課題を可視化するアセスメントを実施する
● ステップ2:解決すべき課題に対して明確なKPIを設定する
● ステップ3:小さな範囲でシステムや施策を試験的に導入する
● ステップ4:結果を計測・評価し、うまくいかなかった点を記録する
● ステップ5:改善内容を次のサイクルに反映し、継続的にアップデートする
この開発と運用を継続的に改善していく手法(DevOps)の考え方を組織に適用することが一つの方法です。小さな改善を積み重ね、システムを更新し続ける体制を整えることが、競争力の維持につながるでしょう。
しかし、IPAの「DX動向2025」によれば、DXの取り組みにおいて成果が出ていると実感できている日本企業は、従業員規模別に見ると52.1%〜64.2%の範囲にあります。「測定できないものは改善できない」という考え方に基づき、定量的かつ明確なKPIを設定してPDCAサイクルを回すことが求められます。こうした取り組みが、DXを継続的に推進するための指針となります。
業界別のDX進捗状況と対策
DXの進捗は業界や企業規模によって大きな差があります。IPAの「DX動向2025」によれば、金融・保険業では「全社的」または「一部部門」でDXに取り組む企業が8割を超えています。一方、同調査によると、DXに取り組んでいるにもかかわらず成果を実感できている企業は、アメリカ・ドイツが8割以上なのに対してわずか6割弱にとどまっています。
金融業界のDXが進んでいる背景には、FinTechなどの新興サービスへの対応意識や、豊富な資金力があります。一方、中小企業では、目前の業務に追われ、投資余力が乏しいことが課題となっています。
しかし、「DXセレクション」に選ばれた企業の事例を見ると、中小企業であっても「経営層の関与」「課題設定」「スモールスタート」「変革の推進」を実践することで、成果を上げています。企業規模や業種に関わらず、自社の状況に合ったDXの取り組みを検討することが重要です。
マルチベンダー環境とパートナー選定
社内DXを進める上では、クラウド、ネットワーク、デバイス、セキュリティなど、複数のベンダーやサービスを組み合わせて最適解を見つける必要があります。しかし、ベンダーが増えれば増えるほど管理は複雑になり、障害発生時の対応窓口が不明確になるという懸念があります。
この課題を解決するためには、プロジェクト全体を管理・調整するPMO(プロジェクト管理部門)を担えるパートナーの存在が重要といえるでしょう。
ウチダエスコでは、デバイスのLCMやキッティングサービスを提供しており、このマルチベンダー環境における中心的な役割を果たすことができます。課題解決に取り組むパートナーをお探しの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
2026年、社内DXは企業の成長を支える重要な基盤となっています。DX推進において成果を上げている企業に共通する特徴は、次の3点です。
● 安定性と柔軟性を備えた「ITインフラ」の整備
● 不要なプロセスを排除した「標準化された業務プロセス」の構築
● 現場の社員がシステムを円滑に利用できる「デジタル・アダプション体制」の確立
自社の限られたリソースを重要度の高い業務に集中させるために、LCMサービスなどを活用して定型業務を最適化することも有効な手段の一つです。手段が目的化しないよう、常に「ビジネスの変革」という目的を意識しながら、自社に合った社内DXを進めていきましょう。
ウチダエスコでは、デバイス管理からネットワーク構築、セキュリティ対策まで、社内DXを総合的にサポートしています。自社のDX推進にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
